#231 「眠れない夜の物語」

 眠れない夜にはいろいろなことが起こる。と言っても、本棚の上の人形が動き出すわけでも、テレビから妖精が出てきて悪戯をするわけでも、ポルターガイストのように電灯がついたり消えたりするわけでもない。

 年齢を重ねると典型的に早朝に覚醒するようになり、その時間がだんだん前倒しになってくる。今では一度でもトイレに行くとそこから先は眠れなくなるということも増えてきた。その時間は時に午前3時であり、ときに午前1時半であり、もっと早い時間のときもある。私は、かなりせっかちな性分なので、5分程度再入眠を試みても眠れない場合は、ヘッドフォンをつけて、BluetoothでスマホのApple Musicを聴く。どのくらいの時間聴くかというのはその日によってまちまちだ。

 一昨晩は寝たのは23時過ぎだったと思うが、目が覚めたら午前1時半だった。その前に見た夢をはっきりと(その時は)覚えていて、それがとにかく普段あまり見ないような変わったものだったので、これは後でネタになると喜んでいたが、朝起きたらすっかり忘れてしまっていた。悲しい。こんなことがどんどん増えている。

 話しは戻って1時半に最初のトイレへ。戻ってから何とか寝ようとしたが、まったく眠れず、いつものようにヘッドフォンをつけて音楽を聴き始めた。上手くいくときは、音楽の途中に自然に眠りにつくことができ、気がつけば明け方、ヘッドフォンをつけたまま目覚めるということがある。そして私の場合、何故か、その夜の一曲目が、それからしばらく頭の中でグルグルと鳴っているということがある。

 睡眠が大事な理由の一つは、脳のフォーマット(完全に初期化してしまったら大変だが)で脳内を浄化するということがあると思うのだが、ずっと音楽が鳴っているときの脳ははたして浄化されているのだろうか。そこが少し心配だ。

 それで、その晩は、いつの間にか眠っていて午前3時ごろふっと気づいてヘッドフォンを外した時に、まだ頭の中で鳴り続けていた音楽は、中島みゆきの「化粧」だった。なるほど、ヘッドフォンをつけて最初に聴いたのは清水翔太がカバーした「化粧」だった。いい曲だ。頭の中で反芻していると、その原曲がたまらなく聴きたくなり、Apple Musicで検索したのだが、どうしてもその中島みゆきの原曲がみつからない。その代わりに何と桜田淳子のカバーバージョン、エレカシの宮本浩次のカバーバージョンなどがどんどんと出てきて、それぞれのバージョンがまったく違う編曲なのでそれらを夢中で楽しんだ。原曲がYouTubeに出ていないかと探したが、やはり一般の方々がカバーしたものばかりで原曲は見つからなかった。そこで「化粧」の入った1974年のアルバムを検索したり、歌詞サイトで歌詞を味わったりして、その夜はもう「眠れない夜」ではなく「眠らない夜」になってしまった。「眠れない夜に化粧」それがその夜の物語。

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