#210 「一晩寝かせる」

 おそらく「一晩寝かせる」ということは、もともとは料理で何かの素材にさらなる旨味を引き出させるための言葉なんじゃないかと思う。料理で寝かせるのは一晩くらいのこともあれば、3日くらい浸けておくこともあるだろうし、漬物とかであればその単位は何カ月にもなるであろう。漬物を「寝かせる」というかどうかは謎だが、ウイスキーや焼酎、ワインなどはもう何年、何十年も寝かせ、それはイコール=グレードの高い高級なものを意味するはずだ(そんなもの簡単に手に入らないのでわからないが)。「寝かせる」には何かを熟成させる、さらに深みを増す、グレードを上げるような意味があるのではないかと思う。と、ここまでは一切ネット検索とかAIさんにお世話にならずに気の向くままに書いている。

 さて、この「一晩寝かせる」に関しては、自分の気持ちや感情についても当てはまると思っている。この一晩というのは、特に「感情をいったん整理する」ために最低限必要な時間だと思う。

 なぜこんなことを思い始めたかというと、具体的に何だったかは記憶に薄いが、仕事の上でとあるメールを受け取って、その内容にとにかく腹が立って、すぐその思いを折り返しのメールでたたきつけ、相手が間違っていることを責め立てた返信をしたら、非難の応酬になり、えらいことになって辛い思いをした経験があったからだ。その翌日に改めて考え直すと、その件もさほど大したことではなく、どうしてあんなに腹が立ったのか、後悔先に立たずの思いをしたものだ。

 こんな自分の経験から始まったことで、今はとにかく感情がざわつくメールを受け取ったときは、「一晩寝かせる」ようにしている。そうすることによって、料理のように自分の感情が熟成されるはずだからである。もし感情が変わらず同じままであったら、それを正直に落ち着いて伝える。しかしこの「寝かせる」時間は一晩であって、二晩ではない方がいいと思う。なぜなら、メールの要件はそれなりに急ぐものであるはずだし、あまりこちらのペースで引き伸ばすことは相手にとっていいことではないからだ。それに長引くと話しているトピック自体がぼやけたりズレたりしてしまう可能性もあるし、下手をすると忘却のかなたに飛んでいくかもしれない。

 そんなこんなで最近はちょっとイラっとしたり、カチンとくるメールを受け取ったときは、必ず一晩寝かせてから翌朝の(翌日の)気持ちでいったん冷静になって考えてから返事をするようにしている。今のところ、この戦略は成功しているようである。

 まあこれは「メール」というコミュニケーション手段の特徴に応じているものであって、普通の会話の場合はそうはいかないし、逆に唐突に会話の中で「それについては明日返事をする」と返すわけにもいかないだろう。そういう意味で、会話は一番直球で正直にお互いが思いを伝えあえる理想的なコミュニケーションだと思う。そして会話の中では「取り返し」が効くのだ。その場で謝って、相手を尊重しなおすことだってできるのだ。

 なんだか内容が複雑になってきたが、とにかく言いたかったのは、嫌なメールに対する返事、あるいは自分の返事が相手の感情に重大な影響を与えると思ったときは、すぐに折り返すのではなく「一晩寝かせて」気持ちを熟成させるのに限るということだ。酸っぱい味や苦い味もまろやかな旨味を増した良い味になっているかもしれないので。

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