#083 「餅は餅屋 ~チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲 作品35から想う~」

昨日は、NHK交響楽団の大阪公演を聴きに行きました。自身、N響を生で聞くのは初めてでした。生でのオーケストラを聴く機会は35年ほど前のシンガポール駐在時代から比べると圧倒的に少なくなりました。そこには、やはりコロナ禍という負の期間の影響があったというのも事実ですが、それとは別に帰国後は、いろいろなオケがバラバラに公演するという、そのタイミングを上手く捕まえるのが難しくなったこと、すぐ近くで公演があるという機会が少ないこと、私たちの仕事も不定期で忙しくなってきたことなどいろいろな理由があります。

否、むしろ、駐在時代にそれほど多く生オケを聴くことができたということ自体が、私たちの人生においては類をみなかったということでしょう。それは地域密着の、そこそこの実力を誇るシンガポール交響楽団(SSO)が年間の半分くらいは地元のホールで、毎週の定期公演をしていて、それのメンバーになり、毎回のように聴きに行っていたからです。今から思うと、(ちょうどバブルのころでもあり)駐在時代は実にセレブな生活をさせてもらっていましたね。そのシリーズ公演の中で、何曲か同じ曲をシーズンの中で演奏するということがありましたが、とにかく一番多く聞いたのが、「チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35」でした。

 私はクラシック好きですが(というか、ほぼすべてのジャンルを愛するミュージックラバーですが)ウンチクを語れるほどでもありません。自分なりに多くのクラシック曲を聞いてきたつもりでも、いわゆる名曲と言われるものが主で、「通が聴く」ような曲はあまりありませんでした。ですから、次はどのオケがどこで何の曲をやる、という情報を入手したとしても、ストラヴィンスキーとかエルガーとかプロコフィエフだとかだったら、名前は知ってるんだけど・・・という感じで、二の足を踏んでしまうのです(ストラヴィンスキーやエルガーファンの皆さま、申し訳ありません)。きっと力(りき)を入れて聞き始めるとまた違ってくるんでしょうがね。

そんな中で、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲と言うのは、メロディーも覚えやすく、きっと初心者でもすぐに馴染めるものではなかったかと思っています。しかも、私たちのように何度も聞いていれば、どんどん造詣が深くなっていくのもわかるでしょう。

 この曲は、ヴァイオリンが主役ですから、当たり前ですけど、必ずソリストが出てきます。そのソリストの演奏や指揮者の曲想のつけ方次第で、曲の持つ雰囲気が曲によって大きく変わったりします。シンガポールで聴いていたときのソリストたちは、詳しく記憶にあるわけではありませんが、アジア系の方が多かったような気がします。割と日本人の方も多く、あとは中国、韓国、地元シンガポール人とか。欧米系の人もたまにいましたが、ロシアはどうだったでしょうか。楽団の客員メンバーとしてロシア人がひとり参加していて、私たちは彼に「素浪人」というニックネームをつけて親しんだものです。弓を大きく振りかぶって弾き下ろす姿が、あたかも刀を振りかざす素浪人の風体をしていたのが理由です。

 これくらい同じ曲を聴いていたら、やはりその回、その回での違いが見えてきます。今日はおとなしめだったとか、今日はテンポが速かったとか。ソリストはアジア系はどちらかと言えば、いかにも譜面に忠実に、学校に一人はいる少し気取った優等生のような雰囲気で曲を細かく完成させるといったタイプが多かったようです(あくまで、個人の感想です・・・)。それに比べて、今回のソリスト、ニキータ・ボリソグレブスキーさんは私は初めて聞く名前でしたが、生粋のロシア人です。「素浪人」も実に大きな身振りで音楽を身体で表現していましたが、ニキータさんもとても大きな手振り足降りで強弱、速い遅いのメリハリも実にはっきりとつけていて、おそらく自分の世界で自由に解釈しているんだろうなあと思わせられました。クリアでとても良い音が出ていました。やっぱり、「我々の国の作曲者なんだから、私が一番わかっているのだ」という自信にあふれている感じでした。「餅は餅屋」ということですかね。とにかく素晴らしい演奏で、心から楽しめました。そして思わず出ました。「ブラボー!!」

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