#188 「脳の有給休暇」

 脳科学者の先生の本の中でもすっかりおなじみになった「脳のデフォルトモード・ネットワーク」だが、特に忙しい毎日を過ごしている人には、人生を変えるかもしれない大事なキーワードだ。かいつまんで言えば、ボーっと無為に過ごす時間が人間にも脳にも必要で、「デフォルトモード・ネットワーク」が働くのはそういう時ということだ。

 かくいう私もだいたいは忙しく動き回っているが、よくよく整理したら、かなり無駄に忙しい時間を過ごしていることがわかりそうだ。なぜか人間、というか私のようなタイプの人間は「無為に時間を過ごす」ことに罪を犯しているような思いを感じるようだ。退屈している暇なんてない、そんなことをしたら貴重な時間なのにもったいない。しかし、このような人は実は自分で自分のパフォーマンスを落としていることになかなか気づかない。

 先日聞いた、ハーバード大学のアーサーC.ブルックス教授のYouTube動画には考えさせられるところがあった。”I get it. You don’t want to be bored. You need to be bored. Be bored more”(わかるよ。退屈したくないよね。でも退屈する必要があるんだ。もっと退屈しよう)というものだ。退屈するとどんないいことがあるのか、それが「脳のデフォルト・モード・ネットワーク」がその時間に働き、脳の中が整理され、いつもでは考えつかないような素敵なアイデアが浮かんでくるからということだ。そして確実にそれは自分のパフォーマンスを上げ、QOLを高めてくれるはずだ。

 「脳にも休暇を」ということだが、単なる休暇ではない。そこには、必ず付加価値がついてくる、すなわち休んでも給料はもらえる「脳の有給休暇」とでも言おうか。

 生活の中で人を「無駄に忙しくさせている(そして脳を休ませない)」原因の一つは疑いなくスマホだろう。自分の生活を振り返るに、歩いていて目の前で信号が赤に変わったら、確実にポケットからスマホを出して見始める。自宅マンションについてエレベーターのスイッチを押したら、自宅階に到着するまでのたかだか数十秒の間に間違いなくスマホを開けている。あまり交通機関は利用しないが、待ち時間は必ずスマホ。「つまり、他にやることがなくボーっとしている時間はない。そんな無駄な時間を過ごしている暇はない」ということだ。世のスマホ族に皮肉な目を向け、家族にもスマホを決して手放しで肯定しない自分だけど、まったく人のことを言えた柄ではないというよりも確実に自分のほうがひどいようだ。

 そしてさらにひどいのが「ながらスマホ」だ。さすがに歩きスマホはやらないが、朝ご飯を食べながらスマホでPodcastを聞く。車を運転しながら、Bluetoothで番組を聞く、などあまりに自分で自分の時間を詰め込みすぎている感がある。普段は意識しないことも、こうやって改めて意識できる機会があると改めてそのひどさがよくわかる。

 あれもこれもと欲張る自分の性格なんだろうなあ。振り返るにスマホに限らず、私の生活の中には「退屈している」あるいは「ボーっと過ごしている」時間なんてほとんどないことに気づく。ブルックス教授は「夜19時以降は絶対スマホを使わない」というルールを自分に課している。「そこからの連絡は、緊急時だけのもので、SNSは緊急時用ではない」とも。啓蒙される言葉だ。

 うーむ、少しでも肝に銘じよ。でも、うちの父親もボーっとせずに暇さえあればすぐにテレビのスイッチを入れる。私に怒られそうだと直感したら、テレビはやめて新聞を開いている。何か他の趣味を見つければいいのにと思うのだが、血は争えないというか、やはり親の遺伝子を受け継いでいるのだろうか。

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