#149 「お天気は挨拶がわり」

 気候変動は確実に地球をむしばんでいるようです。日本でも世界でも気温は軒並み上昇し、スイスで氷河が融けて村がひとつ流されたとか、イランでは気温が47℃になったとか、各地で山火事や巨大ハリケーンや洪水やとかいうニュースは引けも取らず、どれもこれも気候変動と無関係ではないでしょう。

 そして、人々は顔を合わせるたびに「今年の夏は異常だね」とか、「台風がまだひとつも来ていない」とか梅雨が早いとか遅いとか真逆のことを言い合ったり、はたまた「一日の気温差がこれじゃ耐えられない」とかいかに最近の気候が異常かを訴えあいます。

 でもこれは挨拶なんです。「今年の夏は異常だね」と言われて、「いや、そうでもないですよ。去年の今頃は2℃も高かったですから」とか「そうですね、過去5年間のデータをとってみれば毎年0.5℃ずつは高くなって・・・」とか真剣に返す人は、まあいないでしょう。いても、気象庁の人か余程のお天気マニアくらいでしょう。

 地球が温暖化の波にさらされていることは事実だとしても、この「今年の夏は異常だね」は日常の挨拶なのです。人と人がコミュニケーションを始めるための入り口です。だから「本当ですよね~」と返して、「ところで、今朝の『あんぱん」見た?」と続けていくというわけです。

 天気の話題は万国共通の挨拶だというのはよく聞きます。「いいお天気ですね」と言われて気を悪くする人がいる国はないでしょう。でも、格別、天気の話題が好きという人種の国はあるかもしれません。そこまで深く調べていませんのではっきりとは言えませんが、やっぱり四季のある日本なんかは特に好きなんじゃないかと思います。イギリスは雨の話は多いと聞きます。ヨーロッパなんかはやはり天気の変化は大きいし、あいさつ代わりというのは多いんじゃないでしょうか。

 では、常夏の国は年中暑いので天気の挨拶や話題は少ないのかというと、これが意外に天気の話をします。それはシンガポールに16年住んでいた私が実証します。

 シンガポールでは、「四季はないけど、3つ季節があるよ。hot hotter hottestです、ははは・・・」という中学校の英語の授業のようなお決まりのジョークをよく聞きます。シンガポールあるあるです。確かに同じ「暑い」でも、めちゃくちゃ暑い時期とそうでもない時期があります。そうでもない時期はだいたい年末のrainy season(雨期)です。このころになると毎日のようにシトシトと雨が降ります。だからクリスマスは雨のことが多かったですね。雪ならよかったんですが。

 ですから、シンガポールでも頻繁に挨拶に天気の話題が出てきました。「今日は昨日より(暑さが)ましだね」とか「昼からシャワー(いわゆるスコール)らしいよ」とか、そして結構普通に暑いのに「So hot!」とか当たり前のように言っていたのを思い出します。マレーシアでも、ほかの東南アジアの国々でも同じでした。つまりは私の経験した限りでは「挨拶としてお天気の話題の出ない国はない」と言い切ってもいいです。

 少しユニークな挨拶の言葉としてシンガポールで経験したのが「食べた?」というものです。中国語で「你吃了没有?」とかマレー語で「Suda makan?」とかよく言ってましたね。不思議と英語ではあまり言ってなかったようで、これはもともとの文化の影響かなと思います。特に本当に食べたか食べてないかが大事なのではなく、現に食事時間以外でもよく言ってました。この挨拶は近くのマレーシア、タイやインドネシアでも言っていたように思います。中国本土でも言われていると聞いた気がしますので、もともと中国伝来の文化かもしれません。皆さんは「もう食べた?」

(写真:「こんにちは。よく降りますね」鹿児島県南九州市にて)

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