#130 「ストリートピアノ」

 昨日、たまたま(父親がイヤフォンで聞いていた)テレビのバラエティ番組で「ストリートピアノの運営者からの公告で『練習を重ねてつっかえずに弾けるようになってから、ここで発表してください。誰かに届いてこそ音楽です。手前よがりな演奏は「苦音」です(一部省略)』という内容が、とある代表的なソーシャル・メディアに載った」ということを音のない画面で見ていました。

 そしてこの時点で、明らかにこれは暴言だと思った私は、そのままブログを書こうかと思いましたが、いや待てよ、どこかに本音や別の事実が隠れているかもしれないと、少しネットの関連記事やコラムを読んでみました。すると、この件には賛否両論あり、圧倒的にネガティブなコメントや批判が殺到している中にも一定の理解を示している反応もあり、受け取り方はさまざまだったようです。

 コラムによれば、今の世の中ではひとつのブームのように、世界各国津々浦々に多数ストリートピアノが設置されており、その中には、このような騒音問題としてのクレームが出るケースもいくつかあるようです。クレームケースにならなかったとしても、だいたいストリートピアノの場所には「一人10分まで」とか「迷惑になるような演奏はしない」などのルールが掲示されているようです。

 「ピアノは売るけど弾かない」が自慢(自慢してどないする)の私は、もと大手ピアノ製造の会社で16年間営業として働いていましたが、その割には、弾くほうのレパートリーは「猫ふんじゃった」一曲です。まあ恥ずかしい限り。しかし、一応、ピアノメーカーで働いていたためか、必ずストリートピアノを見つけると、そのメーカー名を確認します。そういう習慣だけは抜けません。

 そして、たまたまかもしれませんが、私が出くわすストリートピアノでは、皆さん見事な演奏をされていますよね。そこから私が感じるに、ほとんどの人がストリートピアノを弾く目的を「自分のパフォーマンスの成果のお披露目」であり、「積み上げてきた練習の成果を世に出してドヤ顔をする」としているような気がします。

 で、本当に言いたいことはここからです。運営者側からみると、ストリートピアノを置く目的はそれぞれ個別のものもあるかもしれませんが、「ストリートピアノ」という名前である限りは、そこに共通する理念があり、それは「その場所でピアノを通して人が交流する」というもののはずです。そういう意味で「ストリートピアノ」と「地域の居場所」は、とても似ているような気がします。うちのいこいの広場3丁目も言わば「地域のストリートピアノ」です(うちには本当にピアノがあって、皆さんに可愛がられているのだぞ、ドヤ)。

 うちの居場所に参加される方々には、もちろんいろいろな方々がいらっしゃいます。うちは「地域のストリートピアノ」ですから、皆さんをピアノ奏者に例えますと、演奏が上手なかた、曲の途中でつっかえつっかえする方、初めてピアノに向かう方、昔取った杵柄を再現しようと必死になる方、かなり上級なので自分の曲作りに挑戦する方、などなど様々なタイプの方がいます。そして、すべての新しい演奏者(参加者)は既に集まって曲を弾いていた人々にウェルカムされます。もちろん、いこいの広場ピアノにも一定のルールがありますから、他の人の邪魔になったり、大騒ぎしたりする行為は遠慮いただきます。しかし、最初からシャットアウトするというよりも、何かが発生すればその時に個別に対応するというスタンスです。

 今回の「苦音」の運営者に対するコラムのライターも「練習で何度も同じ個所を繰り返し弾いたり、大きな音で明らかに迷惑な音を出す方がいれば、『個別に相談するなどの対応をすればよかった』」と書かれていました。要はそれを公告として全体に適用するように、しかもあまり気持ちの良くない言葉遣い(苦音)で制限をかけたことがよくなかったのではないかと思います。

 それより今の世の中、ブームに乗って、あまり理念を考えずに「見栄えを良くする(ばえスポットにする)」ためだけにストリートピアノを設置している運営者も多いのではないかと考えてしまいます。とにかく増えすぎです。今回の「苦音」のピアノは大きなフードコートの中だし、もし完成した音楽だけを流して雰囲気を良くしたいなら、ピアニストを雇ったらいかがかと思ってしまいます。残念ながらその苦音ピアノは、運営者のオフィシャルサイトにあまりに中傷コメントが溢れすぎたため、撤去される方向に動いているようです。

 ストリートピアノはあまり珍しくない時代になりました。この辺でちょっと気分を変えて、ピアノ以外の楽器をストリートに置くという手はないのかな。ストリートトランペット。吹ける人はそうそういないし、不衛生だし、何より持って帰られてしまうからダメか。ストリートドラム。まあ騒音問題はピアノどころじゃないですよね。ストリートギター。高いもの置けないなあ。やっぱりストリートはピアノですかね。

(写真:「金のストリートピアノ」浜松経済新聞、ネットサイトより)

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