#158 「ぼくの長い長い心配ごと」

 実はずっと心配していることがあります。「ずっと」と言っても数日や数週間や数か月のレベルではなく、私が物心ついた10代のころからずっと続いている心配ですので、おおかた半世紀は心配しているということです。「そんなに?そりゃどれだけ崇高でレベルの高い心配なの?」と思われるでしょうが、実はこんなことです。「音楽の楽曲って、そう遠くないうちに種切れになってしまうのではないか」ということです。

 これだけじゃ何のことかさっぱり的をえません。説明しましょう。音楽が大衆に「流行歌」という形で降りてきてからどのくらいたつのでしょうか。すなわち私たちが一曲数分程度のピースを楽しむようになってからです。世界で最初に流行歌ができたのはいつ頃だろうとネット検索でもいろいろ調べてみました。3000年も前の古代に中東でできたとの情報を見つけましたが、なんだか音だけが上下に揺れているようなものでした。いやいやそれは「流行歌」とは言わないでしょう。結局よくわかりませんでした。

 おそらく私の勝手な想像では中世で、バッハやヘンデルという偉大な作曲家が出てきたころには、付随して歌詞の付いた流行歌もできてきたんじゃないでしょうか。知らんけど。日本では明治の終わりに「鉄道唱歌」が録音されたのが最古というデータも出てきました。もちろん録音されていない伝承歌みたいなものはあったわけで、そもそも調べるベースがバラバラなのではっきりした結論は出ませんでした。

 さていったい何が言いたいのと思いながらも付き合っていただいている方、お待たせしました。音階の音というものは半音も含めると12音あります。その半音の間の音(つまりクオーター音)も使って音楽を作るのは、中近東とか一部の地域を除いてはほとんどあることではないし、つまりはその12音を組み合わせて作るわけです。どうでしょう。たかだか12音の組み合わせです。どこかに限界があると思いませんか。まあオクターブ上がったり下がったりはできますけど、人が歌うということを前提にすると、それほど広い範囲でのオクターブの上下はあまり現実的ではありません。

 というわけで私の長年の心配とは「新しい音楽(楽曲)がいつか作れなくなる日が来るんじゃないか」というものです。あるいは、世の中に「どこかで聞いたメロディー」というものが溢れかえるのではないかという不安。ただでさえ世の中、著作権にはますますやかましくなってきています。「これは私の曲の盗作だ」という訴えも昔からぼちぼち聞かれます。著作権は作者が死亡してから70年と理解していますが、きっとその前に「盗作された」なんて事例がたくさん出てくるんじゃないかと心配しているわけです。

 しかし驚くのは、なぜかその日は一向に来そうもないということです。たとえばJ-POPというジャンルに絞って考えると、私の人生の中でも最もよく聞いていたのは2008年ごろから7~8年程度(その後あまりフォローしなくなった)ですが、たまに車の中などで、Apple Musicで「最新J-POP」というジャンルを意識的に選んで聞いてみることがあります。J-POPの進化はとどまるところを知らないですね。本当に有能なタレントがどんどん出てくることに驚きます。MRS.GREEN APPLEにしても、緑黄色社会にしても、RADWIMPSにしても、曲の良さには感銘さえ覚えます。その中で、「あれ?このメロディーってどこかで聞いたような・・・」というものは先ずないですね。どうなっているんでしょう。まあ分母が著しく少ないということもあるんですが、無作為抽出ということでの意味はあると思います。

 音楽って本当にマジックですよね。マジック、魔法。私もこれからの人生は決して長くはないですが、いつまでも魔法にかかり続けていたいものです。

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