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#142 「行列と情熱の関係」
最近、偶然か必然なのか、行列ができているニュース映像をよく見ます。先ずは万博に始まり、白浜のパンダ、奈良の「超国宝展」等など。「国宝展」と名の付くものにはぜひ見てみたいという心が動きます。それと「正倉院展」とかも。とても見てみたいのですが、どうしても二の足を踏みます。何故か。そのこころは「混雑しているから」です。万博は繰り返しニュース映像で混雑の様子を見ていますし、「超国宝展」はSNSでつぶやいていた人の話によると、普通に混んでいる絵画展の10倍は混んでいたとのこと、まさに「超混雑展」だったということでした。
このゴールデンウィークのニュースでも、そこここで行列を作っている、混雑している映像が流れました。しばらくはコロナ禍でがらんとした街並みの映像に目が慣れてしまったので、その反動で目が行列の映像に敏感に反応してしまうのかもしれませんが、とにかく日本ではあちこちで行列ができているようです。日本人はよほど行列を作るのが好きなのでしょうか。あるいは3時間待ちもいとわないほど何かを見たい、楽しみたいという情熱が強いのでしょうか。
私自身で言えば、かなりせっかちという性格もありますが、行列で2時間も3時間も待つのは避けたいです。単純に並んで立っているのはしんどいですし。見たい、聞きたいという「情熱の嵐」は人に劣るとは思いませんが、「行列を作るくらいなら遠慮させていただきます」というのは、とても情熱が強いとはいえませんね。
しかし、周りでいろんな世間話をしていて、あまり「行列をいとわず」という方にはお会いしたことがありません。これがいわゆる報道映像のマジックで、そんな映像が何度も流れると、あたかも国民の大半は行列を作ってイベントに参加したり、展覧会を見に行ったりしているという錯覚におちいってしまうのかもしれません。実際に並んでいるのは、ごく一部の「情熱を持った方たち」だけかもしれません。もちろん中には、そんな映像を見て「自分も負けてはおれない」と参戦する強者たちもいらっしゃるでしょうが。

正直言って、私が16年住んでいたシンガポールやその周りの東南アジアの国々で、記憶の範囲では人々がそれほど長い行列を作って何かに参加しようとしている姿は見たことがありません。「たった一回の例外」を除いては。
それはちょうど新しい世紀が始まった2000年のこと。マクドナルドの各店舗で、「ミレニアム記念ハローキティちゃん人形」が一定金額以上購入したお客さんに特典でついてきたのです。それも確か1週間か2週間で人形の種類が変わり、合計10種類くらい。正確なところはあまり覚えていませんが、各国の民族衣装だったり、ミレニアムらしく宇宙飛行士だったり。そのプロモーション期間の数カ月は、「シンガポール人でもこれだけ並ぶの」とビックリしたくらい、開店前から長い行列ができていました。華僑が国民の大半を占めるシンガポールなので、おそらく将来の値上がりを見込んだ投機目的で欲しかったのかと思います。私たちもこの時はなんとか少しでも手に入れたいと店舗に通ったのですが、行列を避けるよう遅めに行ったので、ゲットできないこともしばしばでした。そしてモラルにうるさい国であるので、「こんなものに並ぶとはなにごとだ」とか「人形だけもらってバーガーは捨てて帰る人がいる、けしからん」とかシンガポール随一の新聞に批判的な記事が並んだものです。
そのたった一度の例外を除いては、長い行列を見たことがありません。基本的に「屋外は暑い」国々なので、まあ当然かもしれませんが。マレーシアやタイやインドネシアで日常的に見る行列は、人ではなく「車の行列」、すなわちひどい渋滞ばかりでした。
今現在はわかりません。今のネット社会では、日本だけではなく東南アジアでもひょっとしたら長い行列ができているかもしれません。基本的に、今の社会で「行列を作って何かを見たり聞いたりする」理由の半分はネットでつぶやきたいという気持ちに由来するからでしょう。私もできればつぶやいて「ドヤ顔」をしたいです。もう少し情熱があればの話ですが。
(写真:70年万博の太陽の塔は残ることになって良かった!)
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