#119 「クリームパンはどこへ行った (Where has the cream bun gone?)」

 さて、今朝、私の家ではちょっとした大事件が起きました。私の家ではと言っても騒いでいたのは私一人でしたし(ほかのメンバーはまだ夢の中)、世の中に「ちょっとした大事件」というものが果たして存在するのかは別にしても私は動転していました。

 以前にも書いたように私にとって「朝食」というのは、一日の最大のイベントであり、もっとも生活の質を上げてくれる大切な儀式です。そして今朝は、先ず昨日買ったクリームパンを探すところから始まりました。だいたい菓子パンを買うと、冷蔵庫の中の定位置に置くようにしています。ところが、ない。ない。ない!!他を探してもどこを探してもない!そこで、私は昨日クリームパンを買ったときの記憶をたどることから始めました。

 ~昨日は確か、妻と夕食の買い物にダイエーに行った。食材を買う前にダイソーに寄っていこいの広場のイベントのための買い物をして大きめのビニール袋の中に入れた。なぜ大きめの袋か。それはその後、食材を買って一緒に入れるためだ。その後、地下1階に降りて夕食とイベントのための食材を買って、その時に確かにクリームパンを買った。「また甘いものを!」と妻が冷やかしたから間違いない~

 西村京太郎さんだったら、それらの一連の行動を図に書いて「見える化」して整理するに違いありません。そして推理ミステリー小説を書き重ねていくのです。しかしそこは矢野健太郎ですから、そんな面倒くさいことはしません。頭の中だけで必死に思い出そうとしています。

 ~確か、食材の中でもプラケースに入った惣菜で、途中でお汁がこぼれそうなものは小さいビニールに小分けにして、まとめてダイソーの袋に入れた。そしてクリームパンのような途中で壊れないものは別のバッグに入れたような。そうだ、その別のバッグから取り出し忘れて、まだ中に残っているに違いない。別のバッグとは何だったのか。一応、いくつか思い当たるものを調べてみたが入っていない。そうだ、帰り道で「そのバッグ」をどこかに置き忘れたに違いない。それを見つけた人は中のクリームパンをどうするだろうか。もう食べられてしまったかもしれない。いや、そもそも本当に昨日、クリームパンを買ったのか?~

 答えは、いこいの広場のイベントに持っていくためにその食材だけ分けて玄関に置いていたダイソーの袋の中にクリームパンは鎮座していたのですが、それを見つけるまでの約15分間、脳トレじゃないですがいろいろ記憶をたどる作業に、正直疲れました。脳を使う作業は、歳とともに疲れるものになっていくことを実感しました。おそらく、20年若いころの自分はこれほど、この作業に時間はかからなかったでしょう。

 昨日、たまたま見たサイエンス番組の録画で、記憶は脳の海馬や偏桃体に無秩序に(この「無秩序に」を思い出すのに数分かかりましたが)ちりばめられていて、それをつなぎ合わせてひとつの完成された記憶の集団として再生します。その再生された記憶の姿をイメージすると、まるで宇宙に点在する星座のようだとのことでした。なるほど。我々が思い出して話しているエピソードは一つの星座なんだと思うとちょっと感動します。

 それと同時に、ひとつの星座を見つけ出す作業が、かくもしんどいものになってきたんだという事実を突きつけられたクリームパン失踪事件でした。Where has the cream bun gone?

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