#070 「スーツ」

「スーツ」です。スイーツなら良かったんですが。

 社会に出てから40年目、その中で何年間、常時スーツを着ていたかと顧みれば、まあ5年程度に過ぎません。よくファッション雑誌などで「スーツの似合う男」大賞とかやっていますが、さしずめ私は「スーツの似合わない男」大賞候補くらいにはなるかもしれません。

 しかし、それは誤解です(一人芝居)。私はまあまあのガタイですし、お腹もそれほど出ていませんし、スーツを着れば決して似合わないわけではないんですよ。スーツがよく似合うね・・・と言われたことも1回や2回はありました。要は、着る機会がなかっただけの話しです。しかし、それは私にとっては逆にとても幸運だったと思っています。というのも、特に身につけるもので堅苦しいものは好きではないからです。まあ多分、一番身近な家族がそのことは立証してくれると思います。

 スーツを着ていた5年と言うのは、楽器製造販売大手の会社に就職して、国内で貿易を担当していた時期のことです。社内では、そろいのジャケットを着ていた時期もありましたが、通勤時や出張に出るときはビシッとスーツ姿でした。いずれも、今ではなかなか考えにくいですが、ずっとネクタイを締めていましたね。いまだにネクタイの締め方だけは「手」が覚えています。

 それが東南アジアに赴任してからは、ガラッと服装が変わりました。当時のシンガポールでは、上は開襟シャツというスタイルが主流で、ネクタイはつけない、ジャケットは着ないというスタイルでした。まあ常夏ですから。回りの国々に出張するときも、ほとんどネクタイ、ジャケットはなかったと思います。まあ相手のディーラーさんが短パン、サンダルだったりしますので。今はどうなんでしょう。案外、若手のお洒落でモダン(死語?)なビジネスマンは逆にビシッとスーツで決めているのかもしれません。

 郷に入れば郷に従うというのが、私にとってはとてもラッキーでした。11年間駐在員を勤めた後、私はすったもんだの末、現地で退職し、シンガポールに日本語学校を立ち上げましたが、もちろんスーツなんか着ません。アロハとジーンズが正装でした。

 そして帰国後、半年間の辛いプータローを経てから入った介護業界では、やはりスーツを着る機会はありません。しかも最初の事業所はグループホームでしたので、その決まりごととして、いつも「私服」でした。私の仕事着はさらにカジュアル化して、Tシャツとトレパンかデニムという姿になりました。しかも穴の開いたダメージデニム。

私のTシャツの色や模様はいつも利用者さんたちの目を引くものを選び、事実「今日は鮮やかな赤やね!」とか「うわあ、今日は虎やん!」とか楽しませることができたと思います。そして、ある日、私のダメージデニムは、ある利用者さんに「かわいそう、お金がないのね。そんなにボロボロのズボンをずっと穿いて・・・」と言われることになったのです。大笑いになるとともに、何故かとても嬉しく感激したのを覚えています。

 本当に今までのお仕事生活はラッキーだったと感謝しています。もちろん、普段スーツを着て汗水たらして走り回っていたり、遅くまで残業をして朝帰りをしたりという方々には敬意を表させていただきたいと思います。そういう方々への感謝はいつも忘れずにいたいものです。私も、海外駐在のときはまさにジャパニーズビジネスマン、24時間闘えますか、の世界の中にいました。開襟シャツで。

しかし、だんだんそういうビジネススタイルは、働き方改革などとともに行きつ戻りつ変化し、そしていつか淘汰されていくのでしょうね。

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