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#023 「ヒトはなぜ歌うのか」
NHK「フロンティア」のある回のテーマです。非常に興味深い内容でした。その中で、認知症になって、出来事の記憶や見当識や言葉で表す記憶は消えていっても、音楽の記憶だけはずっと残り続けるということが言われていました。
生後間もない赤ちゃんにビートを聞かせるという実験を行い、ある一定のリズムを刻むビートが突然変形したとき、明らかに赤ちゃんの脳が敏感に反応したそうです。人は生まれてからまずリズムを感じ、メロディーを獲得し、そして言葉を覚え、歌詞を覚えながら歌を学んでいく、そのような人間の成長のもっとも初期に学んだ一連のことは、脳の一番深層に蓄えられていて、簡単には忘れないということでしょう。
そういえば、認知症になって、死期が近づいて、歌を忘れていく順番はまず歌詞で、それからメロディーで、最後にリズムだとどこかで聞きかじったような気がします。それを考えると、生体というものは上手くできているなあ、と感心せざるを得ません。つまりは覚えていく順番の新しいものから忘れていくということです。
現場で働いていたときの経験ですが、認知症の非常に進んだ方で、テーブルを一定のリズムでトントントントン叩いている人がいました。もちろん、もう歌を歌うことはありませんでした。また同様にかなり進んだ方で、歌詞はなくとも、フンフンと鼻歌を歌っておられる方がいました。なるほど・・・と今になって腑に落ちたりしています。
番組に出ていた、イギリス人の2人の認知症高齢者が、5分前の記憶はなくなっても、ビートルズの歌をきれいにすらっと歌われていました。お二人は、ビートルズの歌を歌うことでつながり、冷え切った夫婦関係がまた睦まじくなり、他の高齢者施設で演奏することでネットワークがどんどん広がっていきました。そう、音楽があれば、どんなに高齢になってもネットワークは広がるのです。
かくいう私も、幼いころの細かい出来事の記憶は失せてしまっていることが多いですが、小中の校歌は一言一句間違えず歌えますし、そのころ夢中で見ていたアニメの主題歌は、やはりきれいに再現できます。ひそかに、「これは私だけの特技ではないか」と思い、いつかそれで人を驚かせて、ドヤ顔をしてやろうとたくらんでいたのですが、何と言うことはない、そういうような生体システムだったんですね。
加えて、私には過去の出来事の記憶が、音楽に紐づいてずっと保たれているということがあります。ある曲を聞くと、強烈にその当時の光景、人、気持ちなどが思い出されることがいくつもあります。実は、この「紐づき」は音楽でなくても「匂い」でもあるのですが、詳しくは専門家の方に分析していただきましょう。
私は幼いころから音楽にはとても親しみ、年代によって聞くジャンルの変遷はあったとはいえ、とても音楽好きだと自負しています。歌ったり楽器を演奏したりするのは、また別の技術が必要ですので、なかなかそこでは大成することはありませんでしたが(残念・・・)、音楽好きだけは一生変わらないだろうと思っています。
音楽好きだから、記憶力も長く維持できないかなあ、とひそかに期待しています。そして、こんなに音楽好きにしてくれた母に心から感謝しています。なぜなら、まだ私が赤ちゃんの頃から、そばで必ず母が歌を歌ってくれていたことを聞いているからです。母が亡くなって今年で10年、天国でも歌っているのでしょうね。
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