#017「マスクと信頼」

外出のときは必ずマスクをするようになってから、もうどのくらいたつでしょうか。新型コロナウィルスが拡散し始めたのが2020年1月でしたので、4年と3か月ほどになりますね。私は当時、介護現場で働いていましたので、会社からすぐに「全員マスク着用」の通達が出て、マスクをしないのは自宅に戻ったときだけになりました。

 4年と3か月の時が流れ、私たち家族は今でも外出時はマスクをし続けています。これは、主には妻の病気のため、家族内で感染してはいけないという絶対命題があるからです。

 妻の病気は「重症筋無力症(MG)」という自己免疫疾患で指定難病です。日本全国に約25,000人の患者さんがいます。その中でも、妻の場合は抗Musk抗体を持つという有病者の5%程度という珍しい部類に属しています。幸いなことに、今は服薬治療で症状は安定しており、普通の暮らしが何とかできていますが、感染などによって症状が悪化するリスクがあり、特に気をつけなければならないからです。万一感染したら、即、入院治療だと言われています。妻の病気の部類が「マスク(Musk)」で、「マスク(Mask)」をしなければいけないという笑えないジョークのようです。

一方で、マスクをしつづけることに関しては、もう慣れっこになってしまいました。それが日常として定着しています。逆に、外出時にマスクを外すような状況になれば、確実に戸惑ってしまうでしょう。物理的にも精神的にも。

 昨年春、新型コロナは、感染症分類で5類に移行され、インフルエンザなどと同類になりました。人々はマスクを外し、喜びいさんで外出し、飲食店は売り上げを取り戻し、経済は再度活性化されています。素晴らしいことです。

 ただ、様々な自粛を開放する理由を、「5類に移行したから」と簡単に説明するのは出来ればやめてほしいと思っています。その説明の仕方は一番簡単ですが、一方で「5類に移行した」のは制度上の取り扱いであって、5類に移行したからコロナを制圧した、恐くなくなったではないと思っています。感染症5類にはインフルエンザのほかに梅毒、HIV、風疹、麻疹などもあります。そう考えると恐くないですか。

 それはさておき、欧米よりかなり遅れてではありますが、日本でもマスクをしない人がとても増えています。ただ、地域性もあるのか、神戸は東京に比べてまだまだマスクをしている人が多い印象ですが、今はマスクをしている人、していない人が混在している「マスクボーダーレス社会」が普通になってきました。そしてマスクをしている人もいない人もお互いを気にしません。というよりは、人間としてお互いを信頼し始めているようにも思えます。コロナ初期のころのように、自粛警察もいなければ、自粛を揶揄する人もいません。

 自分が全く健康だと思えばマスクを外す。少し風邪気味だと思えばマスクをする。レストランに人と一緒に入れば、適切なタイミングを見計らってマスクを外す。周りがマスクをしているような集まりの場に来れば、「マスクしたほうがいいですか?」と確認する。そのような気遣いが当たり前になってきたように思います。私自身も、マスクを外している人と当たり前に話ができます。

 地域の中での人と人とのつながりは、このような何気ない信頼関係がベースになっていると感じます。こんな風に考えると、新型コロナは失ったものばかりじゃなくて、得たものも少しはあったのではとほっこりした気持ちになります。

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